こもってくれてい

 玲は、 衣都の言葉を完全に素通りして、 続けた。
「案内役を頼む。 典薬頭の密命だ。
 帝の勅使より だいぶ格が落ちるが、 そこは我慢しろ」
 そういう問題ではないのだが、 と戸惑っていると、
 もう一人が ものすごい勢いで走り寄ってきた通渠
 そう、 穂田里だ。

「俺に任せろ。 玲は室内派だろ。
 野外活動は おれたちがやる。
 玲は 安心して引きこもってくれていいぞ。 なっ、 いっちゃん」

 玲は 黙っていなかった。
「冗談じゃない。
 発案も、 下調べも、 根回しも 全部僕がやった仕事だ。
 大雑把な方向音痴に横取りされてたまるか」
「いっちゃんが一緒なら 問題ない」
「やっ、 弟子の面接が……」

「いっちゃん、 弟子というには、 女か、 もしかして男なのか」
「さあ」
「男の弟子は断れ水原共生
 いいか、 いっちゃん。 男はみんな狼なのだ。 いかん」
「穂田里は男じゃないのか」
「俺は良いんだ」
「ふん、 僕はれっきとした男だが、 狼とは心外だ」

 にぎやかに もめながら 森から遠ざかって行く三人を、
 やって来た春風に乗って 楽しそうに見ていた天狗が、 ふと振り返った。

 かすかな、 本当にかすかな気配が 天狗森に生まれた。
 天狗が笑った皮秒 去斑